動かない。 打ち付ける雨と風にどうすることも出来ず私はただ空を眺めている。 乾いた喉と痺れる身体、感覚が音も無く消えていく。 …そうか…私は… 「…私は死ぬ、のか…」 呟きに応える者はなく、ただ風が吹く。 人は死ぬ間際に穏やかな日の思い出が甦ると言うがどうだろう。 私が今見ているものと言えば、荒々しく吼える木々と禍々しい空ばかり。 …目を閉じれば見えるものなのか。 ゆっくりと瞼が下がってきた頃に気付いた。 見えるのは本当に穏やかで何も無い平穏な日々。 彼が居る。 木立の下、いつもの困ったような笑顔で。 不意に哀しくなり重い瞼を上げると、彼が見えた。 「佐助…さん…?」 居るはずが無い。 幻影だと理解しつつも手を伸ばし触れたいと思うのは、最期が近いからだろうか。 「どうし、て…」 どうして貴方は逝ってしまったのか。 雨だろうか、頬を水滴が伝っている。 彼は…彼は死に際に何を思ったのだろう。 やはり主のことか、それとも あの人のことだ…案外何も考えずあっさりと生を手放したのかもしれない。 目の前の幻影が表情を変える。 辛そうな、とても苦しそうなその表情は 見たことの無い初めての表情だった。 「…想って…下さったのですか…」 私を…私をほんの一寸でも想い描いてくれただろうか。 再び瞼を下ろすと広がったのは果てしない温もり。 今から死のうというのに不思議な感覚。 彼の温もりに似ているそれに包まれていく妙な感覚。 次に瞼を上げたとき、先程のような痛みや疲れは無く ただただ目の前の彼に手を伸ばした。 甦る彼の言葉… 『やっぱ俺、あんたの微笑ってる表情好きだわ』 微笑っている…。 「今…そちらに、逝き…ます………佐助、さ…」 高鳴る鼓動と鎮まる脈。 届いただろうか 届いただろうか ねえ、佐助さん… …貴方に… 私の笑顔は、届きましたか |